第10章 オリオンとアルテミス
「そこで牧場主は考えた。ちょうど数日後は、調査兵団用に育成していた馬を送り出す日だ。そこに紛れこませてしまえ… とな」
ヘングストは、ウィンクしながら話をつづけた。
「貴族には、こう説明したそうじゃ。“ただ単に殺処分するには貴方様にオリオンが犯した罪は重すぎます…。調査兵団に送りこみ、恐ろしい巨人に追われたあとに食われるのが罰としてふさわしいかと” どうじゃ? なかなか上手いことやったもんじゃの、牧場主も。わっはっは!」
マヤは微妙な顔で、ぎこちなく笑った。
多くの仲間を目の前で巨人に食われてきた身としては、笑えるような笑えないような… 話だ。
「なんじゃ? 顔がひきつっておるが」
「……きょ、巨人は… 馬を食べないですけどね…」
するとヘングストは、ふぉっふぉっふぉと大笑いした。
「リヴァイ兵長と同じことを言いよる!」
思いがけず兵長の名前が飛び出し、マヤは目を丸くした。
「え?」
「兵長も今の話を聞いたときな、苦々しい表情で “巨人は馬を食わねぇ” と言っておったわ。おぬしら気が合うのぅ!」
「いえ… きっと調査兵団の兵士はみんな、同じことを言うと思いますよ…」
「そうかい? まぁ とにかくじゃな、オリオンはそういう経緯でここに来たのじゃ」
「なるほど…」
マヤは相槌を打ちながら、オリオンの首すじの真ん中あたりをこぶしでぐっぐと押し始めた。そこには馬がリラックスするツボがあり、アルテミスもそこを押してやると喜ぶのだ。
オリオンは首を下げ、目をとろんとさせている。
「でもヘングストさん、調査兵団の馬は品種改良され、訓練も特別に受けているってハンジさんから聞いたことがあるんですけど、よくオリオンは素の状態で兵団に送りこまれて活躍していますね?」
「そりゃマヤ、こいつは特別だからじゃよ」
ヘングストはリラックスしてマヤのマッサージを受けているオリオンを優しく見守りながら言う。
「その美しい毛並みだけではない。走りだって、訓練なんかせんでも誰にも負けんわ。主がトップスピードで一昼夜駆け抜けろと命じれば、こいつは喜んでそうするじゃろう」