第23章 17歳
………!
驚いて顔を上げると、男がにこにこと笑いながら立っている。
「はは、驚かせたかな?」
優しい声とともに、男はマヤの隣に腰かけた。何が起こったのかわからないといった様子で男を見つめているマヤの瞳からは、涙が止まった。
「もう一度訊いていいかな? 君は山と丘の違いを知っているのかい?」
「あ、あの…。山は高くて…、丘は低いです…」
「はたして本当にそうかな?」
「違うの?」
「あぁ。山と丘は厳密には基準の高さなんてものはないんだ。山より高い丘もあるし、丘より低い山もあるんだよ」
「………」
わかったような、わからないような。
突然目の前に現れた男に、山と丘の違いとは? などと問われて混乱しているマヤは、完全に固まってしまっている。
「ここは丘かな?」
「……だと思ってたの、さっきまで」
「じゃあ、ここは丘だ。君がそう言うなら」
「………」
やっぱり男の言いたいことがよくわからずに、マヤは疑い深い顔をして黙っている。
「いい丘じゃないか。この樫の木は大きくて立派だし…」
男は後ろにそびえ立つ樫の方を一瞬、振り返る。
「景色は抜群だ。空気も美味い。……だろ?」
マヤは、こくんとうなずいた。
急に現れて、難しいことを言ってきて、勝手に横に座って。変な人だけれど、この丘を褒めてくれた。
……私、このお兄ちゃん、好き!
嬉しくなってマヤは、自然と笑顔を男に向けていた。
優しいまなざしでマヤを見つめ返した男は、再び質問してきた。
「もう大丈夫みたいだね。ところで、どうして泣いていたんだい?」