第23章 17歳
空を飛んでいる大きな鳥は、ゆっくりとクロルバ区を見守っているかのように弧を描いていた。
……立派な鳥さん…。
丘から見える景色は、マヤの心をおだやかに鎮めた。
その日からマヤは、学校帰りにマリウスたちにからかわれたときには、丘にのぼるようになった。
丘にのぼれば、平気だった。
平気なはずだった。
「やーい、ブス! 枯葉色の地味女!」
「………」
相手にしないで、丘へ行こう。
マヤがいつもどおりに丘へ向かった背中に聞こえてきた言葉は。
「また逃げるのかよ、弱虫!」
「マリウス、まぁそう言うなって! 枯葉色のブスにはあの枯葉だらけの小さな山がお似合いなんだって」
「あはは! お前、うまいこと言うじゃねぇか」
「だろ?」
「もう山から下りてくんな!」
「そうだそうだ!」
マヤは走った。何も言い返さず、決して振り返らず。
丘に着いたときには、久しぶりに涙があふれていた。
……どうしてあんなこと、言われなくちゃいけないの?
私… 何か悪いことしたの?
いつもなら丘にのぼって樫の木を見上げて幹に手を合わせて。風が揺らす葉の音に耳を傾けて。飛ぶ鳥をうらやましく思って眺めたり、町をじっと見つめていたら。気持ちが落ち着いたのに。
この日は涙が止まらなかった。
樫の木の下でうずくまって。
ぽたぽたと涙が地面に落ちていく。
もうマリウスたちの意地悪に慣れたつもりでいたのに。
私のことだけならまだしも、この場所の悪口まで言われて。
こんなに素敵な場所なのに。
大好きなこの丘。いつ来ても優しく迎えてくれるこの丘。
「……ここは山じゃないもん。丘だもん」
ぐずぐずと鼻をすすりながら、マヤがつぶやいたとき。
「山と丘の違いを知っているのかい?」
いきなり張りのある低い声が降ってきた。