第23章 17歳
だが次の日になっても、マリウスの機嫌は一向に良くならなかった。
マヤの後ろの席のマリウスは、周りの目を盗んでは髪を引っ張った。
「地味な色だよな~!」
「やめてよ」
「ブスは黙ってろ!」
髪は引っ張られるし、ブスと言われるし、マヤは学校が終わったら逃げるようにして家に帰った。
そんなある日、また何かにつけてブスだの枯葉頭だの言われつづけたマヤが帰宅しようとすると、家への道の向こうにマリウスと三人の子分がいた。
「おい、枯葉色!」
「どいて…」
下を向いて小さな声で言うマヤとは対照的に、マリウスの声は堂々としていた。
「やだね」
顔を上げるとマリウスと、その隣にオーラフとカーターがニヤニヤして立っていた。ほんの一歩ほど離れたところに困った顔をしているアレハンドロ。
マリウスの金髪が太陽の光を受けて、キラキラと輝いている。
マヤは逃げ出したくなった。くるりときびすを返すと、家とは反対方向にある丘に向かって走った。
「あ、逃げやがった!」
追いかけてくるかな?
足の速さには少し自信があったが、相手はマリウス。女の子なら勝てることができても、マリウスが真剣に追いかけてきたら必ず追いつかれる。
「追わないのか、マリウス?」
オーラフの問いに面倒くさそうにマリウスは答えた。
「ほっとけ。どうせ明日会えるしな。運河を見に行こうぜ!」
マリウスたちは追いかけてこなかったが、マヤは走りつづけた。
遠くへ、遠くへ、丘のてっぺんへ。
到着したときには、ハァハァと息が切れて苦しかった。大きな樫の木が一本立っていて、マヤはその幹に両手をついて呼吸を落ち着かせた。
落ち着くと木の下に腰をおろして、景色を見た。
遠くにそびえる壁が一番に目に入る。そして家、店、学校、公園。空には大きな鳥が数羽、飛んでいた。