第23章 17歳
「アレハンドロ! マヤから離れろよ!」
マリウスはアレハンドロの肩を掴んでマヤから、ぐいっと引き離した。
「こんな枯葉みたいな色の髪なんか、さわったらブスが移るんじゃねぇか?」
「あはは、ブスだってさ」「マヤってブスなんだな」
オーラフとカーターは顔を見合わせて笑っている。
「どうしたんだい、マリウス? 何を言ってるの」
戸惑うアレハンドロに、さらにマリウスは激しく。
「うっせー! とにかくこいつは枯葉頭のブスなんだよ。行くぞ、お前ら」
そう吐き捨てるとニヤニヤして立っていたオーラフとカーターを引き連れて立ち去る。悲しそうな顔をしているマヤにアレハンドロが何か声をかけようとしたとき、怒号が飛んできた。
「アレハンドロ、来いよ!」
「……うん」
アレハンドロの父親はディーン家の庭師をしている。だからかどうかはわからないが、アレハンドロが最終的にマリウスに逆らうことはなかった。
生まれて初めて乱暴に髪を引っ張られたり、ブスだと言われたマヤは涙ぐみながら走って家に帰った。
「……ただいま」
紅茶屋の扉をひらくと、カウンターには優しい父の姿がいつもと変わらずそこにある。
「おかえり、マヤ。学校は楽しかったかい?」
にこにことおだやかに笑って、洗ったティーカップの水気を真っ白な布巾で拭いている。
……お父さんに心配させちゃ駄目だ…。
幼心にそう思ったマヤは、無理に笑顔を作った。
「うん、楽しかったよ」
「そうか、それは良かった。じゃあ手を洗っておいで。店の手伝いの前に美味い紅茶を淹れてやろう。母さんの焼いたケーキもあるぞ」
「ケーキも?」
「あぁ、母さんの得意なパウンドケーキだ」
「やったぁ!」
今度こそ本当に笑顔になったマヤは、ばたばたと手を洗いに店舗から奥にある住居の方へ走っていった。
……マリウスはきっと、機嫌が悪かったんだわ。私が遊ぶのを断ったから。
明日になったら、大丈夫。
そう思ってマヤは、すっかり嫌なことは忘れて、美味しく父の紅茶と母のケーキを平らげた。