第23章 17歳
そのままリヴァイとマヤは、広場を通り過ぎた。
………?
隣のリヴァイに、自然と寄り添って歩く形になっているマヤだったが、どこに向かっているのだろうと疑問に思った。
兵舎へとつづく道ではない。
……またどこか、お店に連れていってくれるのかしら?
そう考え、歩みをともに、てくてくと。
ほどなくして目的地がマヤにもわかった。
……丘に行くんだ。
街の外れの小高い丘に向かう山道へ、一直線。
「兵長、丘へのぼるんですか?」
「そのつもりだが…?」
訝しげな声色を聞いて、慌てるマヤ。
「あっ、もう帰るのかと思っていたので…」
「……約束… しただろ」
“約束”
その言葉でよみがえる、丘で風に吹かれていた二人の想い。
“上からの景色をマヤ、お前と一緒に見たい”
“……私も一緒に… 見たいです”
丘へつづく山道をのぼりながら、二人の記憶はひとつになる。
“じゃあ… 約束してくれますか? またここで… この丘で一緒に景色を見るって”
“あぁ、約束しよう”
「……約束… しましたね」
少しずつ見えてくる、丘の主である大きな一本の樫の木。いつも変わらず枝葉を広げ、丘を目指してのぼってくる者を待っている。
一歩進むごとに、前回足を踏み入れたときよりも黄色の小花がたくさん咲いていることに気づく。
青い空、風に流れる白い雲。
すっくと丘に立つ大きな樫の木。そのまわりに敷き詰められた緑の絨毯のような艶のある草。風が吹くたびに揺れる黄色の小花たち。
「風に揺れる花たちは、微笑んでるみたいですね」
そうささやいたマヤの横顔は、リヴァイにはまぶしくて。
「そうだな」
同調した自身の声が掠れている。
約束していた丘に来た。
何もプランはない。
ただ一緒に景色を眺めたいだけ。一緒にいたいだけ。
それでいいのだろうか?
丘に到着して、樫の木の前に二人で立って、さてこれから何をすればいいのか。何を話せばいいのか。黙って一緒に景色を眺めればいいのか。それでマヤは喜ぶのだろうか。
リヴァイが考えていたときに聞こえてきたそれは。
「ピー ヒョロロロロ…」
マヤが心を通わせている鳶(とび)の声だった。