第23章 17歳
「ちょっと買ってくるので、ここで待っててもらっていいですか?」
「わかった」
「すみません!」
ぺこりと頭を下げると、マヤは急いで店内に入っていった。
店先にひとり残されたリヴァイは、少し強く吹いている風にはためく幟(のぼり)の文字を読む。
“ヘルネ名物 バウムクーヘン”
………。
リヴァイが難しい顔をして幟を睨んでいると、マヤが戻ってきた。
「お待たせしました」
「……早かったな。買えたのか?」
「はい」
笑顔でマヤは小さな手提げの紙袋を持ち上げた。
「名物だけあって、山のように積み上げてありました。あんなにたくさんのバウムクーヘンを見たのは初めてかも!」
歩き出したリヴァイの隣にならんで、ほがらかにマヤは笑った。
「……それなんだが」
「ん?」
「あの店の幟…、前は違う名物だったような…」
「え? そうなんですか?」
「あぁ…。確か “ヘルネ名物 フィナンシェ” だった気が…」
「どういうことなんでしょう…」
「さぁな。その時々で名物が変わるんじゃねぇか?」
「そんなことが?」
「店がそのとき売りたいものが名物になるとか」
「………」
マヤは黙って手提げの紙袋を見つめた。その顔は少し曇っている。
「美味そうだったんだろ?」
「はい、それはもう。いい匂いがしていて」
「美味かったら、名物だろうがなかろうが、ペトラは喜ぶだろうよ」
「そうですよね。美味しかったらそれでいいかな」
曇っていた顔が綺麗に晴れた。
「……だな。すまねぇな、変なことを言って」
「いえ! 私も実はちょっと思ったんです。バウムクーヘンってヘルネの名物なの? って。でもまぁ、なんでもいいです。兵長の言うように美味しければ」
再び笑ったマヤを目の前にして、リヴァイはほっとする。つい気になったから幟の文言が以前と違うことを口に出してしまったが、それによりマヤの元気がなくなり失敗だったと思った。
店が名物をころころ変えるのは何故だろうかと気にはなるが、今はもう追求するのはやめておこう。