第2章 芽生える
午前の立体機動の訓練を終え手を洗っていると、ペトラが声をかけてきた。
「兵長、お疲れ様です。午後からの訓練は予定どおり、対人格闘でよろしいでしょうか?」
「あぁ、そうだな。俺はエルヴィンに呼ばれているから少し遅れるが、皆で先に始めといてくれ」
「了解です!」
ペトラ・ラルは、847年に入団した101期生だ。
まだ二年目だが優秀な兵士である彼女を、今春 俺の班… 調査兵団特別作戦班、通称 “リヴァイ班” に指名した。
彼女と同じカラネス区出身で、同期のオルオ・ボザドも同時に指名した。
この二人は普段は言い争いばかりしているが、いざ戦闘となると同郷の幼馴染みの為せる業か非常に息が合っており、討伐の連係が素晴らしい。
オルオは討伐数、ペトラは討伐補佐数が、ベテラン兵士と比べても抜きん出ており、俺の大抜擢の指名にも誰も異を唱えなかった。
活躍する二人は、101期生の華だ。
……マヤ・ウィンディッシュは、そんな二人と同じ101期生だ。
あまり詳しいことは知らないが同期といっても、ペトラとオルオが東のカラネス区出身、マヤは西のクロルバ区出身で、所属していた訓練兵団はそれぞれ東方訓練兵団、西方訓練兵団と違うらしい。
よって調査兵団に入団してからのつきあいになるが、ペトラとマヤは仲が良いらしく、一緒にいるところをよく見かけていた。
しかし元々部下の女兵士を “女” として見ていない俺は、マヤに限らず興味はない。
誰のことも兵士の能力としてどの程度のものか… という観点でしか、見ていなかった。
班に欠員が出て補充人員を選定していく過程で圧倒的に優秀だったオルオとペトラに目が留まり、しばらくこの二人を訓練中に限らず観察した。
そのときにペトラは、マヤと行動をともにすることが多いと知った。
マヤの戦績にも目を通したが、平凡なものだった。
死と隣り合わせの調査兵団では “生き残っている” だけでも優秀といえるのだが、俺の班に引き入れるかどうか検討するほどの戦績ではなかった。
俺にとってマヤは、ただそれだけのひとりの女兵士… 自分の班に引き入れる優秀な女兵士と仲の良い “平凡な女兵士” にすぎなかった。
それなのに俺の中で、何かが変わっていく気がした。