第29章 カモミールの庭で
レイはそんなマヤの心の内などお見通しのようだ。
「あはは、思ってるんだろ? なんで私がそんなことをする必要がって」
「………」
図星で思わず視線を逸らす。
「いいって、そう思うのも当然だ。オレの確信の気持ちは変わらねぇんだ。でもマヤに協力してもらうのに、マヤが疑っていたら話にならないだろ?」
「……? ちょっと話が見えてこないのですが…。協力ってなんですか? さぐること?」
「ちげぇよ。イルザを調査兵団の訓練の見学に招待してもらいたい」
「え!?」
「イルザをオレがしたみたいに訓練の見学に行かせるんだ。そしてリックの店に何知らぬ顔で連れていく。今も二人が想い合っているなら…」
「あぁ! もしお二人が今も想い合っているなら最高の再会になるわ…!」
レイのアイディアにマヤは俄然乗り気になった。
「私もイルザさんの好きな人がリックさんなんだと思えたなら、協力します。リックさんはイルザさんが再婚していると思っているのだし、イルザさんはきっとリックさんの居場所を知らない。二人が再会して長年の想いが通じるのなら、私もすごく嬉しいです!」
「……だろ?」
レイは最初からマヤがこの作戦に乗り気になるとわかっていたみたいな顔をして微笑んだ。
折しも薔薇園に風が吹いて、レイの美しい白銀の髪が揺れる。
「ミャオン!」
マヤの膝の上で大人しくしていた白猫のアレキサンドラが、ひと声鳴いた。それはあたかも “マヤ、あたしを撫でる手が止まってるわよ” とでも言っているようだ。
「ごめんね、アレキサンドラ」
再び白く華奢な手でアレキサンドラを優しく撫でているマヤをまぶしく見つめながら、レイは話を締めくくった。
「そろそろ部屋に戻るか。マヤ、頼んだぞ」
「任せて。イルザさんの想いをしっかり見定めてみせます!」
「あぁ、期待している」
レイが立ち上がったのでマヤもアレキサンドラを抱いて立とうとした。
「ミャオ!」
だが美しい白猫はするりとマヤの腕を抜けて、薔薇園の奥へ駆けていく。