第2章 芽生える
丘で泣いていたマヤを見かけた次の日の朝。食堂に行くと、
「リヴァイー! ここ! ここ!」
ハンジが、ぶんぶん腕を振りまわしてやがる。
……朝からクソうるせぇ。
面倒なので俺は黙って、ハンジの隣に座った。
そこにはモブリット、ペトラ、そしてマヤがいた。
「「「兵長、おはようございます」」」
それぞれが挨拶してくる。
昨日の今日なので斜め向かいに座っているマヤが気になり、そっとうかがう。
マヤはテーブルについている皆の話に優しく微笑みながら、スープを飲んでいた。
今までろくに、彼女の顔を見たことはなかった。
濃い茶色の長い髪、白くなめらかな肌、琥珀色の大きな瞳に添えられた長いまつ毛、すっと鼻すじの通った小さな鼻、艶やかなくちびる…。
横に座っているペトラが可愛らしい感じであるのに対して、マヤは清楚な雰囲気をまとっている。
俺は何とはなしに、彼女から目が離せなくなってしまった。
じっと顔を見る俺の視線に気づいたのか、マヤが不意にこちらを向いた。
初めて正面から見るマヤの顔。
ぎゅっと心臓を掴まれた気がして、眉間に皺を寄せた。
そのとき響いた、モブリットの心配そうな声。
「マヤ。そういえば昨日、マリウスのお袋さんに会ったんだろ?」
マヤはモブリットの方に顔を向けた。
ほんの一瞬だったが確かに絡み合った視線に、柄にもなくどぎまぎした自分に戸惑う。
マヤはそんな俺の内心など露ほども知らず、モブリットに返事をしていた。
「はい…。私への手紙が出てきたから…、来てほしいと言われました」
「そうか…、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
そう答えて淋しそうに笑うマヤに、しみじみとペトラがつぶやいた。
「マリウスはマヤのこと…、大好きだったもんね…」
しんみりしてしまった場を盛り立てたのはハンジだった。
「さぁ みんな! 朝はしっかり食べないと訓練に差し支えるよ! モブリット、人参残すな!」
ハンジに人参を残すなと怒られているモブリットは、朝の食堂のお馴染みの光景だ。
皆が笑い、和やかな空気が流れた。