第23章 17歳
「それでジャムが特別なのかと思って舐めてみたけど、そうでもなくって…?」
小首を傾げながらマヤはつづけた。
「うーん、スコーンが何か違うのでしょうか?」
と言いながら、スコーンの何もついていないところをちぎって口に入れた。
「………」
もぐもぐと真剣な顔をしてスコーンを味わっているマヤを見ていると、リヴァイの胸はマヤへの愛おしさでいっぱいになる。
「どうだ? 何か違ったか?」
「……多分、あっさりしています。でもよくわからない…。大体、スコーンにはクロテッドクリームをつけて食べるから。スコーンだけの味ってこんなでしたっけ?」
「さぁな…。訊いてみればいいんじゃねぇか?」
そう言うなり、リヴァイは卓上の銀の呼び鈴を押した。チンと軽やかな音が響く。
ほどなくして現れたリックは、優雅な所作で一礼をした。
「いかがなさいましたか?」
「訊きてぇことがあるんだが…」
すっと自身に向けられたリヴァイの視線を受けて、マヤはあとを継いだ。
「このスコーンなんですけど…、少しあっさりしてますよね? いつも食べているものよりジャムとの相性がいいし」
「ほぅ…」
背すじをぴんと伸ばして聞いていたリックが発した声には、少々意外だといったニュアンスが含まれている。
「よく気づかれましたな。うちのスコーンは牛ではなくヤギの乳を使用しております」
「ヤギ!?」
思いがけない動物の名前に、素っ頓狂な声が出てしまうマヤ。
「左様で。新鮮な牧草だけを食べているヤギの乳は全く臭みもなく、牛よりもあっさりとしていて、ほのかに甘い。それを生地に使うことで、素朴でシンプルなスコーンが焼けます。クロテッドクリームは牛の乳ですのでどんなスコーンと勝負しても負けないのですが、ジャムは… 素材によってはコクのあるスコーンに負けてしまう。だから優しいヤギの乳のスコーンがいい塩梅で、どんなジャムとも仲良くできるのです」