第23章 17歳
「左様で。ここだけの話…」
リックは内緒話をするかのように少し背をかがめた。
「実はこの淹れ方は、私が考案したものでして」
「え?」「は?」
マヤの三度目の “え?” と、リヴァイの “は?” が重なった。
「それは初耳だな、爺さん」
「それはそうでしょうな。ヘルネでは誰も知らないことです」
「すごいです、リックさん! ご自分で考えたなんて!」
マヤは胸の前で両手を組んでいて、敬う想いが顔いっぱいに広がっている。
「なぁに、大したことではありません。王都では貴族のお屋敷に呼ばれることもありましてな、ご婦人方の歓心を買うためには工夫せざるを得ないので…」
当時のことを思い出しているのか、リックは遠い目をしている。
「数々の失敗もありましたが、この技だけはどこで披露しても好評でした」
「そうでしょうね。本当に素敵な淹れ方で…、クロルバにまで伝わってきたくらいですもの!」
マヤの純粋な称賛の心が伝わり、リックは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
そして深々とお辞儀をするとテーブルに置いていた銀盆を小脇に抱えた。
「……少しおしゃべりがすぎましたな…。何かございましたら、卓上の呼び鈴をお使いください。では…、ごゆっくりどうぞ」
リックが厨房に通じている扉から姿を消すと、リヴァイとマヤはあらためて視線を絡めた。
「……飲もうか」
「はい」
二人は同時に桔梗のカップ&ソーサーを手に取った。
「いただきます」
マヤの言葉が合図であるかのように、リヴァイはカップに口をつけた。それを見てからマヤも、リックのオリジナルブレンドティーの香りを吸いこんだ。