第23章 17歳
「私が子供のころ、うちのライバル店のオーナーさんが取り入れたんです。なんでも “王都で流行している最新の淹れ方” だって。すぐにクロルバでも評判になって、母が父に “うちの店でもやってみたら” と提案したのですが、父は “邪道だ” と言って取り合わなくて。でも私はライバル店のオーナーさんが、今のリックさんみたいに高いところから一気に注ぐのを見たときに、すごくかっこいいなって思ったんです。そして今もやっぱり素敵で…、感動しました」
「お褒めにあずかり光栄至極でございます」
白く見事な形のあご鬚をさすりながら、リックは満足そうだ。
「あの…、リックさんが淹れるやり方なんですもの。父が “邪道だ” なんて言うのは、やはり間違ってますよね?」
「お父上は、なぜ邪道と…?」
「わかりません。ただ… “今までの淹れ方で充分美味しく淹れられるのだから、うちでは必要ない” とだけしか…」
「なるほど」
納得したかのようにリックはうなずいた。
「邪道かどうかはさておき、お父上の仰るとおり。この淹れ方をしたからといって、美味しくなる訳ではございません」
「え?」
驚くマヤに、ずっと黙っていたリヴァイも言い添える。
「……爺さんはいつもは、あんな高ぇところから注がずに普通に淹れるからな」
「え?」
二度目の “え?” を発するマヤ。
「そうなんですか?」
驚きで目を真ん丸にしているマヤに、リックは優しく答えた。
「左様でございます。先ほどの淹れ方は… そうですな…、言ってみればパフォーマンスですな」
「パフォーマンス!?」
てっきり高々と掲げたティーポットから勢いよく、まるでひとすじの滝の落ちるがごとく注ぐスタイルに意味があるものかと。美味しく淹れる極意なのかと。
そう考えていたマヤは、パフォーマンスだと言いきるリックに驚愕した。