第29章 カモミールの庭で
「あの…、急なお願いだから…、兵長が意味がわからないと言うのももっともなんですけど…」
想像していたよりも強い拒絶の雰囲気をまとったリヴァイの様子に、マヤは少々しどろもどろになりながら必死で考えを巡らせている。
……やっぱり理由も説明せずに、いきなりリヴァイ班の訓練に招待してほしいなんて、勝手すぎるよね?
兵長が訳がわからないと機嫌を悪くするのも当然だわ。
兵長にもリックさんとイルザさんの恋の話をしないと…。
でも、あの話を知っているのはレイさんと私の二人。リックさんが話してくれたのは、あのときあの場所でレイさんと私の組み合わせだったから話してくれたのかもしれないし。もちろん最初から言いふらす気なんてないけれど、必要に迫られているからといって話していいものなのかな…?
レイさんは最後にこう言っていたけれど…。
「じゃあ団長か兵士長に頼んで、うまいこと調査兵団の方からイルザを招待してくれ。普通の訓練だとインパクトが弱いから、できたら兵士長直轄のスーパー兵士軍団の訓練なんかいいんじゃねぇか?」
「リヴァイ班のことですね…」
「それだそれ」
「あの、お母様は招待しなくていいんですか?」
「あぁ、おふくろがいたら顔を突っこんできてうるせぇし、下手こいてまとまる話もぽしゃったらしゃれになんねぇからよ…。招待する日を9月の20日前後にしてくれればいい。毎年その時期からおふくろは実家の領地に長期休暇に出向くから、招待されても行かねぇはずだ」
「わかりました…。ひとつ、気になっていることがあるんですが」
「なんだ?」
「リックさんがこのあいだ私たちに話してくれたイルザさんのお話…、兵長に言っちゃ駄目ですよね?」
「は? 言わねぇとさすがの兵士長もOKしてくれねぇんじゃないのか?」
「でもリックさんのプライバシーに関わることですし…」
「プライバシーも何も、リックの恋を実らせてやるために関係者が知ることは仕方ねぇことだろ…」
「そうかもしれないけど…」
顔を曇らせているマヤを、レイは笑い飛ばした。
「じゃあこうしろ、ギリギリまではリックとイルザの恋話は伏せていろ。もう話さないと無理ってなったら話せばいい。そして二人の恋の成就に全力を尽くせば文句はないだろうよ」