第23章 17歳
「素敵な絵ですね」
油絵からリヴァイに顔を向けたマヤ。
「こうやって誰かが茶摘みをするから、美味しい紅茶が生まれるんですものね」
「そうだな」
目と目が合うが、すぐにまた油絵の方をマヤは向く。
「色も… 綺麗…」
つぶやいたマヤの言葉を耳にしたリヴァイは、あらためて絵を見る。
なだらかな丘を茶の葉の濃い緑が覆う。遠景には青く高い山並みに白い雲が流れている。
茶畑の真ん中に描かれている背の高い女性は、一心不乱に手許の葉を摘んでいる。背中には麦わら色の大きな籠。真っ白なカーディガンを羽織り、頭には目の覚めるような真紅の布を巻いている。
緑の中に浮かぶ白と赤が、鮮やかな印象を残す。
「あっ…」
驚いたような声を出すマヤ。何事かと思えば。
「これを描いた人…」
……画家のことか。
リヴァイがそう思って絵の左端にあるサインを確認すれば、ちょうどマヤが読み上げた。
「カイン・トゥクル…、カイン… トゥクル…」
呪文のように画家の名前を繰り返す。
「どうした? 知ってる画家なのか?」
「はい…。この名前、どこかで聞いたことが…」
マヤは眉間に皺を軽く寄せて呪文を唱える。
「カイン・トゥクル…、カイン・トゥクル… 確か… 恋嘘の…!」
「コイウソ…?」
今度はリヴァイが眉間に皺を寄せる番だ。
「“恋と嘘の成れの果て” の略です!」
「……は?」
……そんな嬉しそうに堂々と胸を張って答えられても、一体なんのことやら。
リヴァイの眉間の皺は、ますます深くなる。
「あっ、すみません。本の名前なんです。その本の挿絵を描いているのが、カイン・トゥクルっていう名前だったはずです」