第23章 17歳
小さな白い花を咲かす可憐なその姿に反して、力強い花言葉を持つカモミール。踏まれても決して枯れずに花を咲かす、その強い生命力に由来している。
……カモミールみたいに強くなりたい。
マヤは口許を引きしめると、中庭の景色から室内へ視線を移した。
白い壁には大きな絵が一枚、飾られている。
どこかの茶園の茶畑が一面に広がっている。その中央に大きな籠を背負った女性が茶摘みをしている油絵だ。
牧歌的なその絵に、マヤは惹きつけられた。
リヴァイはテーブルを挟んで向かいに座っているマヤをじっと見つめている。
何か考えこんでいるような顔をしているので訊けば、母がスコーンを焼かないのは何故かと真顔になる。
母親に直接訊いてみろと言ってみれば笑い出す… かと思えば、黙ってしまって泣きそうになっている。
どういう風に声をかければいいか、わからない。
今にもその大きな琥珀色の瞳に涙があふれるのではないかと懸念した矢先に、マヤは視線を窓の外に移した。
涙は止まり、引きしまった顔で今は壁の油絵を見つめている。
……女の心理なんかは全然理解できねぇが、よくもまあこんな短い間にころころと表情が変わるものなんだな…。
悩んでいるときは話を聞いて力になってやりたいと思うし、笑えば一緒に笑いたい。泣けば涙をぬぐってやりたい。
そう心から願うのに、実際は何ひとつできなくて、ただ馬鹿みてぇにマヤの顔を見ていただけだ。
見惚れていたと言ってもいいかもしれない。
刻々と変化する表情のひとつひとつが、まぶしかった。
人類最強だの噂されたところで、好きな女の前だと結局はその気持ちがどこにあるのかも、何を感じているのかもわからなくて、ただ見つめることしかできないでいる。
リヴァイはそんな自身を不甲斐なく感じながら、少しでもマヤの心に近づきたくて、壁の絵に意識を向けた。