第23章 17歳
「うちの店では母がスコーンやケーキを焼いて、父の紅茶に添えて出しているんですけど、スコーンをね… 毎日焼かないなぁと思って…」
マヤはリヴァイをまっすぐに見つめると質問した。
「なんででしょう?」
「なんでだろうな?」
間髪をいれずにそう答えたリヴァイに対して、マヤはなんだか無性におかしくなってきて笑いがこみ上げる。
「あはっ、なんでかなんて全然わからないですよね」
「それはそうだろう。俺の母親じゃねぇしな」
「ふふ、そうですよね。私がわからないのに兵長がわかる訳ないですよね」
「訊いてみればいいんじゃねぇか?」
「そうですね。今度帰ったら… 訊いてみます」
冬の長期休暇に帰省してから、もう半年あまり。
マリウスが亡くなったときにクロルバには帰省している。だが一瞬顔を出しただけだ。マリウスの生家のディーン商会に行って、すぐに兵舎にとんぼ返りした。
自身の実家でゆっくり過ごさなかったのは、どんな顔をすればいいかわからなかったからだ。
調査兵団の兵士になることに、あまりいい顔をしなかった父親も “ディーンさんのところのマリウスくんが一緒なら” と安心していたのに。
マリウスのことを思い出せば、胸が痛む。
マリウスのお母さんの泣き顔…。
………。
鼻がつんとして何かがこみ上げてきそうになる。
……駄目よ、泣いたりしたら。兵長が困るじゃない…。
マヤは泣き出しそうな心を鎮めるために、窓の外の景色に目をやった。
そこはこぢんまりとした中庭になっていて、風にそよぐ緑が陽に照らされて輝いていた。一面に白い花が咲いている。
綺麗だなと思って目を凝らせば、その花は黄色い中心部が丸く盛り上がっていて、周りを細く白い花びらが囲っている。
……カモミールかしら?
近くで見ないとあの花がカモミールかどうかわからないけれど、もしもカモミールならば花言葉は確か、“逆境で生まれる力”。