第23章 17歳
そこには優雅な書体で “スコーン クロテッドクリームと季節のジャム” とだけ書かれている。シンプルなことこの上ない。
「……季節のジャム…」
マヤのつぶやきに、すかさずリックが言い添える。
「今の季節は、あんずでございます」
「美味しそう!」
「ええ、美味しいですよ。では…」
コホンとリックは軽く咳ばらいをすると。
「キーマンとオリジナルブレンドをどちらもストレートで。スコーンは一人前でよろしいですかな?」
「あぁ」
「かしこまりました」
礼をしたリックが厨房に消えると、マヤは慌ててリヴァイに訊いた。
「兵長はスコーンを食べないんですか?」
「あぁ、いつも紅茶だけだ」
「……そうですか。なんかすみません、私だけ…」
「別にかまわねぇ。スコーンは爺さんの自信作みてぇで、俺がいつもたのまねぇことを不服そうにしていたから今日は喜んでるだろうな」
「そうなんですね。自信作かぁ…、美味しいんだろうな…。紅茶もスコーンも楽しみです」
もうすぐ味わえるクリームティーに胸が躍る。
クリームティーとは紅茶とスコーンをセットにしたもののこと。もっとも基本の組み合わせで伝統的な王道の味。
マヤの父の店でも無論クリームティーはあるが、常設メニューではなかった。なぜなら母が毎日、焼かないからだ。
マヤの母は、スコーンより他の菓子… クッキーやシフォンケーキを焼くことの方が多かった。なかでもパウンドケーキは常備しているといっていいほど、ほぼ毎日焼いていた。
……なんでだろう?
今の今まで考えたこともなかったが、マヤは母がなぜスコーンよりケーキを好んだのか疑問に思った。
紅茶といえば何をおいてもスコーンであるのに。
「どうした? 難しい顔をして」
リヴァイの声が飛ぶ。
紅茶もスコーンも楽しみだと言ったきり、そのセリフとは正反対の怪訝な様子で眉をひそめたマヤを心配したのだ。