第23章 17歳
桔梗のティーカップを見つめているマヤ。そのマヤから目が離せないリヴァイ。
そんな二人の背中に遠慮がちに声がかけられた。
「……兵士長、キャッスルトン茶園の茶葉をお包みしました」
リヴァイが振り向くと、リックがうやうやしく立っている。
「あぁ」
うなずいたリヴァイに対してリックは慇懃に頭を下げながら告げた。
「お席のご用意も整いました。お包みしました茶葉はお帰りのときに…」
「よく… 飲んでいくとわかったな」
「それはもう… 愛らしいお連れ様とご一緒ですので当然そうなさるかと…」
「ハッ、爺さんにはかなわねぇな」
そうつぶやいたリヴァイがマヤを見れば、マヤはまだ魅入られたように桔梗のティーカップに釘づけで、リックが来たことにすら気づいていない様子だ。
リヴァイはリックの耳もとで二言三言(ふたことみこと)ささやく。
「かしこまりました。いつでもよろしいときに、お越しくださいませ」
再びリックは丁寧にお辞儀をしてから、奥の部屋に通じる扉へ消えた。
マヤはまだ桔梗のティーカップに見入っている。
……好きなだけ見ればいい。
リヴァイはマヤが満足するまで待とうと決めた。
それから数分は経っただろうか。
マヤは夢から覚めたような様子で他のティーカップを見始めた。どのカップにも新鮮な喜びを見いだしながら。
カップボードの端までゆっくりと歩み、すべてのティーカップを見終わる。
「……はぁ…」
満足の吐息をつくと、マヤは振り返った。
「こんなに素敵なコレクションをじっくりと見ることができて、最高でした」
「そうか、良かったな」
「はい!」
嬉しそうに笑ったマヤは、次のリヴァイの言葉でさらに幸せな気持ちになった。
「では爺さんの紅茶を飲みに行こうか」