第23章 17歳
床を見つめながら、ためらいがちに “お願いします” と言ったマヤにリヴァイは安堵の息をつく。
「……それでいい」
隣に立つマヤの耳にすら届かないのではないかと思われるほど小さなつぶやき。
……妙な遠慮をしやがって。
この店に入った瞬間から伝わってきていた、マヤの喜びが。店の雰囲気に、品揃えに、香りに…。マヤは全身で表現していた、この店に来て良かったと、嬉しいと、楽しいと。
王都の店にも引けを取らねぇ茶葉の種類に顔を輝かせ、野に咲き乱れる花のように数多く並べられているティーカップに興奮している。
無理もねぇ。
爺さんの店は、まるでここが王都じゃねぇのかと錯覚させるほどだからな…。
王都にあるティーカップ専門店の話をすれば行ってみたいと、その琥珀色の瞳を煌めかせる。
……本当に紅茶が好きなんだな。ならば俺が連れていってやる。
その想いを伝える。
「そんなに行きてぇなら、いつか連れていってやる」
「え?」
あからさまにに動揺して、少し黙りこんだ末に断ってくるマヤ。
なぜだ? 行きたいんだろう? 連れていってやると言ってるじゃねぇか。
眉間に皺を寄せる俺の目の前で、くだらねぇ理由をほざくマヤ。
「あの… 兵長にご迷惑をかける訳には…」
こいつは、なんにもわかっちゃいねぇ。
迷惑ってなんだ?
なんでこう… いつもいつも、俺との距離を取りたがる。
今日だって、こうやって一緒にここへ来たじゃねぇか。これも迷惑だったのか?
俺は全然迷惑なんかじゃねぇ。約束をしたときから心に灯りがともったみてぇで、あたたかくて。
待ち遠しくて仕方がなかった。
マヤ… お前となら、どこへでも行ける。
そう自覚した途端に、少しささくれ立っていた気持ちも落ち着いた。
マヤをどこへでも連れていってやるとの想いをこめて、もう一度伝えてみる。
「行きてぇんだろ? 俺が… 連れていってやるから」
想いは伝染する。
「では… お願いします…」
やっと承諾してくれたマヤの顔は紅く色づいて、とても甘いとリヴァイは思った。