第23章 17歳
クロルバと声に出すだけで、生まれ育った緑豊かで素朴な町並みが目に浮かぶ。
すると自然に声がやわらかくなった。
「だから父が王都に行ったときのお土産でしか、私はデブナム・リドリーを知りません。子供のころに父から “フリッツ王の紅茶なんだよ” と教えられて、すごいなぁって思ったんです。そして今…、ここで普通に… なんでもないように並んでいるたくさんのデブナム・リドリーを見て、出てくる言葉は “すごい” しかなくって。あぁ、私は昔も今も、同じ言葉でしか表現できなくて全然成長してないんだなぁって思いました。そんな自分にあきれちゃって…」
あははと眉を下げて少し自分を卑下しながら再び苦笑いをしたマヤ。
リヴァイはしばらくその横顔を何も言わずに見つめていたが、こう声をかけた。
「実際、デブナム・リドリーもこの店もすげぇから、お前がそうとしか言えなくても不思議でもなんでもねぇ。それに俺からすれば…」
リヴァイの瞳の色がふっと優しくなった。
「お前は充分に表現が豊かだと思うが…」
「……そう… ですか?」
「あぁ」
……そうとも。
たとえ言葉では表現ができなくても、その瞳が輝くとき。俺には伝わってくる、お前の心がどれだけ動かされているかを。
表情ひとつで、マヤの喜怒哀楽がダイレクトに伝わってくる。
そして。
マヤよ、そんなお前が愛おしい。
「ありがとうございます。兵長にそう言っていただけたら、なんだか… 安心できます」
マヤの琥珀色の瞳に静かに満ちていく、喜びの色が。それはとても幸せそうで。
見ているだけで心地良い。
「兵長、給湯室に置いてあるデブナム・リドリーのゴールデンチップスは、ここで調達されたんですね」
「あぁ。ここを知る前は王都に行ったときに買っていたが、今はその必要がなくなった」
「リックさんは、どうしてデブナム・リドリーを? 特別な方なのでしょうか?」
クロルバよりは栄えているとはいえ、ヘルネも内地に比べれば田舎であることには違いない。
だからマヤには、どうしても不思議で仕方がないのだ。
何故この “カサブランカ” では、デブナム・リドリーを販売することができるのかが。