第23章 17歳
無邪気に訊いてくる小さな娘に、優しく微笑む。
「父さんも売りたいのは、やまやまなんだけどな…。これは王家御用達だけあって、ここみたいな田舎の店では手に入らないんだよ」
「ふぅん…。クロルバは田舎なの?」
「そうさ、田舎だ。王都はもっともっと店がたくさんあって、人もうじゃうじゃいるんだ」
「うわぁ…、行ってみたいなぁ!」
「マヤが大きくなったら、いくらでも行けるさ」
……結局… 学校を出たあと、すぐに訓練兵団に入ったから王都には行かずじまいだわ。
マヤは幼少時の父との会話を思い出して懐かしむ。
父の言った “田舎では手に入らない” の言葉どおりに、王家御用達のデブナム・リドリーの茶葉はその後、クロルバでは一度も販売されることはなかった。マヤの父の店以外にも紅茶屋はあるのだが、どこも王都の名だたる紅茶商との伝手がなかったらしい。
クロルバの住民にとっては、まさに “幻の茶葉” であるデブナム・リドリー。
それがこの店 “カサブランカ” では、当たり前のように陳列されている。
「本当にすごいわ…」
思わず口をついて出る言葉は、感嘆のみ。
幼かったあのころも、そしてこうして一応一人前の兵士となった今も、“すごい” としか表現できない自身の語彙力のなさに情けなくもなり、ひとり苦笑いをしてしまう。
「何がおかしい?」
マヤの動向は何も見逃さまいとしているリヴァイから、途端に声が飛ぶ。
「兵長…」
マヤはデブナム・リドリーの薄緑色の紅茶缶からリヴァイ兵長へと視線を移す。
「デブナム・リドリーが普通に売ってるから、びっくりしちゃって。それで父との会話を思い出してたんです、子供のころの…」
「そうか」
「はい。私の故郷はクロルバ区なんですが、デブナム・リドリーを売っている店は一軒もありません。やはり王家御用達は田舎のクロルバには遠い存在みたいで…」