第23章 17歳
売り場のここで、こんなにも紅茶の香りに包まれているのだから。
きっと… ううん絶対に、あの白い扉の向こう側の紅茶を飲む部屋には、幸せな香りが満ちているに違いない。
あとで入ることになるであろう奥の部屋のことを想像していると、わくわくしてくる。自然と笑顔になったマヤは、今いる店内を満喫しようと右側の陳列棚に近づいた。
「……すごい品揃えですね」
「あぁ。王都にある店にも引けを取らないからな、ここは」
リヴァイは、色とりどりの紅茶の缶を称賛の目で見上げているマヤの隣に静かに立つ。
「デブナム・リドリーがあんなにいっぱい…」
そうつぶやいたマヤの視線の先には、恐らくこの店内でもっとも高価である王家御用達のブランド、デブナム・リドリーの薄緑色の缶が幾つもならんでいた。
デブナム・リドリーの茶葉は生産数が少なく、希少価値が高い。扱える紅茶商も限られており、王都に軒を連ねる紅茶屋も競って入荷しようとするが困難な状況。
そんなデブナム・リドリーであるので、もちろんと言ってはなんだが、マヤの父の店では当然のごとく取り扱うことなど夢のまた夢。
マヤがデブナム・リドリーの紅茶を飲めるのは、父が王都の土産として買って帰ってきたときだけなのだ。
初めて飲んだのは、まだ学校にも上がっていない幼きとき。
「お父さん、この紅茶、美味しい!」
「そうだろ? デブナム・リドリーといって王家御用達なんだよ」
「おうけごようたし…?」
「王家が… マヤも知ってるだろ? 一番えらい王様、フリッツ王だ」
「うん」
「そのフリッツ王が飲まれている紅茶なんだ」
「へぇ… すごいのね!」
「そうさ。すごいんだよ」
「じゃあ、お父さん。うちのお店でも、これから売るの?」