第23章 17歳
誰よりも紅茶に精通している男が、当店に連れてきた娘。
特別ではない訳がない。意味があるに違いない。
ならば。
……うちの紅茶で、二人の仲を深めることができれば。
見る限り、まだ恋人同士でもなんでもない雰囲気の二人をリックは温かく見守りたいと願う。
「……それでは私は奥で茶葉をお包みしておきますので、ごゆっくり…」
「あぁ」
ひとことで返したリヴァイと、まだ自分に対してどういう風な態度を取っていいかわからないといった様子で軽く会釈をしたマヤに、リックは再度深々と頭を下げて奥の部屋に通じる扉から出ていった。
「兵長…、今のが “爺さん” ですか?」
「あぁ」
「優しそうな方ですね。香りそのものって感じ…」
「……香り? どうした、ミケみたいなことを言うじゃねぇか」
「ふふ、そうですね」
マヤは軽く微笑んでから、店内を見渡した。
「でもほら… ここに満ちている、このすごくいい香り…。リックさんのまとう雰囲気や物腰そのもので…。リックさんの淹れる紅茶は素晴らしいでしょうね…。飲んでみたいなぁ…」
「あとで飲めばいい」
「え? 飲めるんですか?」
マヤは自分でそう質問しておいて、おかしなことを訊くと内心で思った。
以前に “爺さん” のことをリヴァイ兵長から “紅茶を淹れるのが上手い” と聞かされているのだから、兵長はリック爺さんの淹れた紅茶の味を知っているのであり、それはこの店で飲んだのに違いないだろうに。
しかしマヤが今いる店内には、どう見ても紅茶を飲むスペースがない。
入り口の扉を入って左側には大きなマホガニー製のカップボードが置いてある。オープンシェルフになっていて、壁いっぱいのサイズの幅広の棚に色とりどりのティーカップが陳列されている。