第23章 17歳
店主は大仰に驚いた風に、眉を高々と上げた。
「兵士長が誰かといらっしゃるとは。それも若い女性… 一驚を喫するとはこのこと…」
つぶやくようにそう言ったのち、店主はマヤに深々とお辞儀をした。
「ようこそ、“カサブランカ” へ。オーナーのリック・ブレインと申します。お見知りおきを」
店内を漂う紅茶の素晴らしい香りに陶酔しきっていたマヤは、目の前でオーナーと名乗る男に挨拶をされて、慌てて自己紹介をする。
「マヤ・ウィンディッシュです。よろしくお願いします」
「兵士長…、実に可愛らしいお連れ様ですな」
頭を下げたマヤに親愛の情をこめたまなざしを送りながら、リックはリヴァイに笑いかけた。
リヴァイはそれには返事をせずに、ほんの少し困ったように店内を見渡した。
「茶葉が入荷したんだってな」
「……左様でございます。キャッスルトン茶園の初夏摘みです」
うやうやしい物腰でリヴァイに返答しながらリックは、心の内で分析をしていた。
……実にめずらしい。
あの兵士長が、照れ隠しに話題を変えた。こんな彼は見たことがないわい。
この娘、一体何者なんだ。
初めて兵士長がこの店に姿を現したときには “戦うことしか能がない目つきの悪い小さな男” だと思ったものだが、いざつきあい始めてみると意外なことに紅茶に造詣が深く、なかなかの好男子だと知った。
しかし紅茶と掃除にしか興味がないように見受けられ、勝手ながら伴侶の心配を密かにしていたものだ。
仕事柄王都に通い、貴族とも面識が多少はある。
そのうち誰か、気難しい兵士長に優しく寄り添えるような貴族の娘との仲でも取り持とうかと考えていたくらいだ。
……だが、全く必要なかったらしい。