第29章 カモミールの庭で
……ギリギリまで伏せる。
マヤはレイとの会話を思い返しながら、今取る行動を決めた。
「調査兵団にとってもっとも重要な任務は言うまでもなく壁外調査です。そのためには資金がいる。バルネフェルト公爵やレイさんが多額の寄付をしてくださっていますが、あらたにラント前侯爵夫人も寄付してくださったら兵団にとって最良ですよね…?」
「………」
唐突に資金集めのために招待するんだと言い出したマヤを、リヴァイは眉間に皺を深く寄せて疑わしそうに眺めている。
「お昼に、バルネフェルト公爵夫人とラント前侯爵夫人とご一緒して色々なお話をしたんです。そのときにラント前侯爵夫人は、兵長の活躍にすごく興味を持たれていましたし…」
「……なぜ?」
「なぜ…って、団長が兵長のことを話されたからだと思いますが…」
「あぁぁ…、面白おかしくエルヴィンが語ったふざけたアレか」
リヴァイの声色が冷えていて、マヤの背すじに冷や汗が流れる。
「……それでですね…。せっかく… 興味を持ってもらえたんだし訓練を見学したら…、もっと興味が出て、その延長線上に寄付が…」
……ちょっと無理があるわ…。
無理やりに、寄付金目当てで訓練を見学してもらいたいという理由をこじつけて話しているマヤは、自分でも少し… いやかなり無理があると感じられて言葉が途切れ途切れになってしまっている。
「ほぅ…」
マヤの焦りを見透かすかのようにリヴァイはつづける。
「マヤよ、いつから調査兵団の資金集めを念頭に行動するような人間になっちまった? まるでエルヴィンみたいじゃねぇか」
「私はいつだって兵団のことを考えていますよ…?」
「そうか?」
「そうですよ…」
マヤは膝の上で握りしめている自身の手を見つめている。
「ならば顔を上げて俺の目を見て、もう一度言ってみろ」