第23章 17歳
だがすぐに、マヤは気がついた。
ただ無秩序に茶葉の種類や量が多い訳ではない。
あまたの茶葉の香りの洪水も、その中心にあるひとつの芯のある香りによって統制がとれている。
この店の中心にあるその香りは実に見事で、数多くの茶葉が放つ香りを美しくまとめて率いていた。
リヴァイのあとにつづいて一歩店内に入り、すうっと胸いっぱいに香りを吸いこんだマヤの琥珀色の瞳が輝いた。
……この素晴らしい香りはきっと、店長さんのオリジナルブレンドだわ!
紅茶屋の主人なる者は、各自オリジナルのブレンドティーを持っているものだ。
それが店の特徴であり、看板として支えつづける。常連客がその店の馴染みとなっていくのも、店主のオリジナルブレンドに惚れこんで… といった場合が多い。
マヤの父も、もちろんオリジナルブレンドを持っている。母もマヤも、近所の住民も店の常連も、皆が愛する飽きのこない香味。それなのに不思議なことに飲むたびに毎回、初めて出会ったような錯覚を起こす香味。
きっとこの店のオリジナルブレンドも素晴らしい逸品に違いない。
マヤが吸いこんだ魅惑の香りについて無限の想いを馳せていると。
「いらっしゃいませ…」
きぃっと奥にある木の扉がひらいたかと思うと、背の高い男性が出てきた。頭髪は真っ白で丁寧に撫でつけてある。立派なあご鬚も雪のように白い。
服装は、パリッとした白のシャツに黒のジレ。タイはしておらず、ボタンを胸元ぎりぎりまで外している。
「リヴァイ兵士長、ちょうど良かった。ご所望の茶葉が入荷したばかりじゃ… ん?」
その店主らしき男はリヴァイに向かってにこやかに話しかけていたが、どうやらリヴァイの後ろにちょこんと立っているマヤに気がついたらしい。
「ほぅ? これはめずらしい。お連れ様が一緒とは…」