第23章 17歳
……どの道を行くのかしら?
広場で立ち止まったリヴァイの背を見ながらマヤは思う。
……爺さん…、兵長の行きつけの紅茶屋さんに連れていってくれると言っていたけれど。
どんなお店なのかな?
兵長の行きつけなら、きっと本格的な専門店に違いない。そんなお店がこの街にあるなんて知らなかった。知っていたなら真っ先に行っていたもの。
ヘルネの街でマヤが知っている紅茶の茶葉を扱っている店は、代表的な数種類の茶葉を缶に詰めて販売している。紅茶専門店ではなく、食料品店や雑貨屋の一角に置いてあるという風情だ。
マヤの父の店のようにブレンドしたり、量り売りといった細かなニーズには対応していない。
少し淋しくはあるが、この街ではそんなに紅茶に情熱を注いでいないのかな? そんなものなのかな?とマヤは漠然と思っていた。
それが。
今から連れていってもらえるというリヴァイ兵長御用達の紅茶の店。
楽しみで仕方がない。
マヤはわくわくと心を躍らせながら、リヴァイが広場から放射状に伸びる道のどれを選ぶのかを待った。
「こっちだ」
そう言ってリヴァイが進んだ道は、やはりマヤにとって馴染みのない道。
通りの入り口には、立ち飲みバル。今の時間はカフェとして営業している。そして進んでいけば紳士服や男性用の革靴の店が、軒を連ねている。
初めて足を踏み入れる通りの左右の店を、きょろきょろと興味深く見渡しながらリヴァイのあとをついていく。
「タイ専門店…」
めずらしい店を見つけて、思わずつぶやくマヤ。
その声に振り向いたリヴァイは、なぜか少し嬉しそうに見えた。
「あの店は王都から取り寄せた品も多い。なかなかいいものを扱っている」
「そうですか」
相槌を打ったマヤには、そのタイ専門店の窓から店内の様子が見えた。
壁に綺麗に陳列されている様々な形のタイ。幅広のネクタイ、細めのネクタイ、蝶ネクタイにループタイ。シンプルなモノトーンに派手な原色カラーのもの。ストライプや水玉模様にギンガムチェック。
……あっ。
歩きながら覗いていたので店内の様子はもう見えなくなったが、マヤの視界の最後に映ったものは、真っ白なクラバットだった。
……あれは… 兵長がいつも巻いているものだわ。