第23章 17歳
「私… この花、好きなんです。祖母が…」
ぽつりぽつりと語り始めたマヤの視線の先には、星型の青紫の桔梗の花が風にそよいでいる。
「優しくて大好きだった祖母が大切にしていた、木の箱があったんです。幼かった私は “何が入ってるんだろう?” とずっと思っていました。ある日、箱の中には万年筆に吸い取り紙、便箋、封筒に手紙が何通か入っていることを知りました。その手紙は…」
マヤは桔梗の花から空を見上げ、少し遠い目をした。
「祖母が結婚する前に祖父からもらったものだそうです。そしてその木の箱… 文箱も祖父からの贈り物だったんですって」
「そうか」
「はい。祖父は私が生まれてすぐに亡くなったので、どんな人だったか知らないんですけど、でも祖母が祖父からもらった文箱と手紙を、愛おしそうに撫でている姿を見てきたから…」
マヤの脳裏には、いつもにこにこと笑顔で人に怒ったことなど一度もない祖母が、小さな机の前でぴんと背すじを伸ばして文箱を見つめている姿が浮かんだ。
「……祖母が亡くなり、その文箱は私がもらい受けたんです」
「そうか」
「……その文箱には、ふたに綺麗な花が彫られているんですけど、それがキキョウなんです。だから私、キキョウが咲いているところを見ると祖母と祖父が笑い合っているような気がして…」
空から隣に立つリヴァイへ、マヤはその琥珀色の瞳を向ける。
「とっても幸せな気持ちになるんです。だからこの、青紫色で星の形をしたキキョウの花が大好きです」
そこまで話してマヤは、はっと気づく。
……好きなキキョウの花が綺麗に咲いていたからつい、訊かれてもいないのにべらべらと自分の話ばっかりしてしまったけど…。
どうしよう、迷惑だったかな?
もともと隣に立っているだけで、どきどきして苦しい胸がもっと切なくなる。
だが絡んだ視線の先の青灰色の瞳は、大好きだった祖母と同じ優しい色を宿していた。