第23章 17歳
「いや、俺も今来たところだ。……それにまだ、2時までには時間がある」
謝罪をすれば、おだやかな声が返ってきた。
「はい…」
心底ほっとする。
マヤが胸を撫で下ろしていると、さらにおだやかなリヴァイの声に包まれた。
「行くぞ」
「はい!」
二人はヘルネへの一本道を歩き始める。
爽やかに晴れて、時折ひゅっと風が吹いては道端の緑を揺らした。いつもヘルネへ行くときは道すがら樹々の緑を、草花の輝きを楽しむマヤは、今もそうした。
そうすることによってリヴァイ兵長と二人きりで出かけるという考えただけでも緊張で心臓が口から飛び出してしまいそうな事態から、少しでも平常心を取り戻せる気がするのだ。
「あっ」
ヘルネまで、あと半分のところまで来たとき漏らした小さな声。
すかさずリヴァイが訊く。
「どうした?」
「この間はつぼみだったキキョウが咲きました」
立ち止まってマヤが指さした野辺には、青紫色の桔梗の花がこぼれんばかりに咲いていた。
「キキョウは… つぼみのときは紙風船のようにふくらんで咲き誇るのを今か今かと待っているんです。とても可愛らしいんですよ」
「そうか」
「はい。つぼみ…、ないかな…」
マヤはリヴァイに桔梗のつぼみを見せようと探す。
「……あった!」
群生している桔梗の花のそばに、まだつぼみのままで風に揺れている数本を見つけた。
「兵長、見てください」
言われたとおりに桔梗のつぼみに目をやると、リヴァイは素直に感想を口にする。
「確かにこれは、紫の紙風船みてぇだな」
「でしょう?」
同意してくれたリヴァイの言葉が嬉しくて、マヤの笑顔が桔梗に負けないくらいに咲きこぼれる。
………。
思わずリヴァイは道端の花より、目の前で笑うマヤの顔に釘づけになった。