第23章 17歳
「遅れてしまって…、すみません!」
いつも聞き惚れる澄んだ声が乱れている。駆けたからだろうか、ほんの少しはぁはぁと…。その息遣いが艶めかしい。
上がった息、ほんのりと紅に染まる頬、乱れた涼やかな声。
……マヤよ、お前の何もかもが俺を揺さぶる。
だが、何食わぬ顔をして答えるしかできない。
「いや、俺も今来たところだ」
嘘だ。この木に背を預けてから、かれこれ15分は経っている。
「それにまだ… 2時までには時間がある」
「はい…」
マヤは軽く上がった息を整えながら返事をするのが精いっぱいだ。
当然リヴァイ兵長より先に、待ち合わせ場所のこの大きなクヌギの木の前に来るつもりで部屋を出た。
廊下を進み、兵舎を出て、正門が近づいてくる。それに伴い緊張が高まって、それでなくても朝からトクントクンとうるさい胸がどうにかなってしまいそうだ。
……落ち着いて、私…!
右手で心臓のあたりを押さえて正門を出る。
……あれ?
待ち合わせのクヌギの木のところに人影が見える。
……やだ。誰かいる…。
どうしよう、あそこで兵長と待ち合わせているのに…。
そう思いながら歩いていくと人影が誰なのか、おのずと知れた。
……兵長だわ!
大変! 兵長を待たせるなんて…!
嘘でしょう? ちゃんと時間前につくように部屋を出たはずだけど。
マヤの頭の中は大混乱におちいったが、そんな場合ではない。
次の瞬間には走り出した。
すぐにクヌギの木は大きくなってくる。そしてそこにもたれかかっているリヴァイ兵長の姿もはっきりと見えて。
とにかく謝りたい。
「……兵長!」
駆けながら叫ぶ声は上ずり、みっともなくて恥ずかしい。