第23章 17歳
……今日は、なんの日かだと?
今日は日曜日で、午後からマヤと街へ出る約束をしている。
執務を手伝ってくれている礼だと称してはいるが実際のところは、俺がマヤと一緒に出かけたいだけだ。
出かける前に片づけておきたい執務もあるし、気持ちだって妙に浮ついたりしないよう落ち着かせておきたい。
要するに… 心身ともに結構余裕がねぇ。
こんな部屋を出た廊下で、謎かけなのか単なる純粋な質問なのか知る由もねぇが、ちんたらミケと会話している暇なんかねぇんだ、クソが。
相手をしているこの時間が無駄だ。
「……さぁな」
俺はひとことつぶやき、今度こそ去ろうとした。しかし追いかけるように放たれたミケの声がそれを許さなかった。
「今日は… マヤの誕生日だ」
……なんだって?
思いがけない情報に思わずミケの顔を見上げてしまう。
……クッ。
またこの目だ、この顔だ。
一見すべてが無機質なようでいて、底知れないあたたかさを秘めた目の色。どこか… 考えたくもねぇが俺を抱きしめるような危うさを孕んだ顔。
なぜそんな顔をする? そんな顔で今日がマヤの誕生日だなんてことを俺に告げる?
……なんなんだ、一体。
「……マヤを頼んだぞ」
その言葉で一瞬、何かが掴めた気がした。
ヤツの理解しがたい表情の意味も、わずかにいつもとは違う声のトーンも、マヤの直属の上司である分隊長としてのセリフだけとは言いがたい何かが。
今、俺はクヌギの幹に身を預け腕を組みながら、ミケの表情と言葉の真意を考えている。そして捕らえた気がした。
……まさか、ミケもマヤを…?
「……兵長!」
涼やかな声が飛びこんできて、思考は断ち切られた。
マヤが駆けてくる。
きっと先に来ている俺を見て、慌てているのだろう。
一秒ごとにマヤが大きくなって、ほらもう目の前に。