第23章 17歳
時刻は14時の少し前。
調査兵団の兵舎の正門を出て、七十メートルほど行ったところに立っている一本の大木。秋には可愛らしいドングリをころころと落とすクヌギだ。
そのクヌギに背を預け、腕を組んで立っているリヴァイは今朝のことを考えていた。
朝、自室を出たところで隣室の男と出くわした。
やたら背の高いミケの野郎だ。
……なんで居室も執務室も、隣がこいつなんだ。
そう思いながら自身の頭上のはるか遠くにあるミケのにやけた顔を見上げると、不思議な表情が待ち受けていた。
俺はミケの、この顔を知っている。
どこかで見た表情。いつか気づいた瞳の色。
そうだ、つい昨日のことだった。
この不可思議な雰囲気を瞳にたたえて、ミケは俺を見つめていた。
単にからかうだけではない、見守るような優しさ。穏やかでゆるやかで、どこか少し寂しげにあきらめているような。だが芯は強く。
「リヴァイ」
「なんだ」
「行くんだな? 今日」
……は? マヤとのことか?
何を言ってやがる。行くに決まってるだろうが。
ミケの不必要な確認作業のような質問に心の内で若干苛立つが、ここでこいつと言い争っても仕方がない。
だから短く答える。
「あぁ」
「そうか」
そう言ったきり黙ってしまったミケに不審の目を向ける。
……何が言いたいんだ。変なヤツだな。
もともと図体がでけぇだけでなく、妙な嗅ぎ癖があるという訳のわからねぇ変態野郎だとは思っていたが。
つきあいきれねぇ。
午後の待ち合わせの前に、朝のうちに片づけておきてぇ執務もあるし。
……俺は忙しいんだ。そこをどきやがれ!
とは思うが口にはせずに立ち去ろうとすれば、静かな声が追いかけてきた。
「……今日はなんの日か知ってるか?」
「……あ?」
渋々立ち止まり、振り返った俺の三白眼をとらえたミケの小さな瞳は、やはり謎めく光を放っていた。