第23章 17歳
「ペトラ!」
飛びこんできた友の姿に、マヤは我に返る。
「どうしたの? なんか様子が変だけど」
「うん…。ペトラを待ってたら、だんだん落ち着かなくなってきて。もう駄目だ、兵長と出かけるなんて無理、どっか行っちゃえって逃げ出しそうになってた…」
「あらら!」
せっかくのリヴァイ兵長とのお出かけから、あろうことか逃亡しようとしていたマヤにペトラはあきれる。
「何もったいないこと言ってんのよ、もう!」
両手を腰にあて仁王立ちになると、声を荒らげた。
「さぁ、座って!」
ペトラは机の前の椅子にマヤを座らせると、机の上に置いてあるヘアブラシを手に取った。
「いい? 何も心配することなんかないんだから落ち着いて。一回、深呼吸して?」
「……わかった」
素直に、すーはーっと深呼吸したマヤに微笑みかける。
「どう? 落ち着いた?」
「……うん」
はたから見ても落ち着きを取り戻したマヤに “もう大丈夫だね” と心の内で安心するとペトラは、ヘアブラシでマヤの髪を梳き始めた。
濃い茶色の長い髪。背中の真ん中あたりまで伸びている癖のないストレート。
なんの引っ掛かりもなく、ヘアブラシがすっと流れていく。
右から後ろ、左と梳きながら、ペトラは声をかける。
「……緊張して眠れなかったりした?」
「……うん」
「大丈夫だよ、だってあの兵長だよ? 緊張して当然だし、逆にぐーすか眠れたらびっくりするわ!」
ほがらかに笑うペトラにつられて、マヤも白い歯がこぼれる。
「ぐーすかって!」
「あはは。とにかく! 今のマヤの状態は当たり前のことなんだから逃げ出そうとしなくていいの。そのドキドキを楽しんじゃえ!」
その励ましに思わずマヤはペトラの方を振り返る。目と目が合うと、ペトラはヘアブラシを置いた。
「さぁ、編もうか。とびっきり可愛くしてあげるよ」