第23章 17歳
それなのに、さも自分のモノのような言いぐさをしやがって。
……気に入らねぇ。
視線をマヤの華奢な背中から、やたらでかい図体のミケに向けるとヤツの視線とかち合った。
砂色の前髪の奥からのぞく瞳は、明らかに面白がっている。
……チッ。
胸糞悪ぃと思ったが、ミケの瞳の色が面白がっている以外に何か、理解しがたい色を秘めていることに気づいた。
……なんだ?
からかう以外の穏やかな何か。一種のあきらめのような、はたまた見守りのような。不思議な色。優しさすら匂う色。
リヴァイがミケの瞳の色の意味を考えているうちにマヤは部屋を出ていった。
閉まる扉の音に一瞬気を取られたすきに、ミケの瞳の色は消えてしまった。
……まぁ、いい。
俺がミケの野郎の顔色をうかがう必要なんか、これっぽちもねぇんだから。綺麗さっぱり忘れてやるよ。
そう考えたリヴァイだったが、このときはまだ知らなかった。
次の日の朝に再び、同じ瞳の色に出会うことになろうとは。
給湯室から帰ってきたマヤに、今日は俺の執務の手伝いには来なくていい、明日に備えてゆっくり休めと伝えるとリヴァイは、ミケをじろりと一瞥したのち出ていった。
そのまま執務を再開したミケとマヤ。18時になり、どちらからともなく自然とペンを走らせる手が止まる。
「今日はこれで終わりにしよう」
いつものミケの終業の言葉。
「はい」
いつものマヤの返事も、明日を控えているからか、やけに幸せそうに響く。
「明日は楽しんでこい」
「はい」
「せっかくリヴァイが執務の手伝いはいらないからと時間をくれたんだ。言葉どおりにゆっくり休んで万全の体調で行ってこい」
「了解です!」
元気よく返事をしたマヤは手早く帰り支度をすると跳ねるように扉に向かい、くるりと振り返った。
「お疲れ様でした。失礼します」
「あぁ、お疲れ」
ぱたんと閉まる扉の音を耳にしながらミケは、机の上に置いてある小さな卓上カレンダーの日付を見ていた。
明日の日付を。
そして誰もいない執務室でひとり、つぶやいた。
「……7月7日か」