第9章 捕らえる
………!
マヤはじりじりと迫りくるリヴァイに圧倒された。
リヴァイの全身からはシュウシュウと蒸気が上がっているように見え、その目は獲物を狩る猛獣のようにギラギラしている。
リヴァイ兵長の獣性を剥き出しにしたその姿に背すじが寒くなりながらも後ずさりつづけたが、ついには樹の幹に背がつき逃げ場がなくなった。
「おい」
マヤは恐怖で喉がカラカラになり、声が出ない。
「おい… 俺にこんなに本気を出させるなんて上等じゃねぇか」
その言葉を吐き出すと同時にリヴァイは、マヤの顔の横に右手をついた。
「おい…」
間近で見るリヴァイ兵長の目は、マヤが知っている何を考えているかどうかわからないような冷たいものではなく、燃え盛る紅蓮の炎を宿していた。
鬼神のようなその姿に恐怖を感じたマヤは、思わず下を向き目をつぶった。
「おい… なんとか言えよ…」
リヴァイは右手は幹につけたまま、左手でマヤのあごに手をかけ、ぐいっと上に向かせた。
「……わ… 私…」
「なんだ? 聞こえねぇな」
見たこともない恐ろしい様子の兵長に息がかかる距離まで迫られ、マヤは鷹の前の雀の如く身がすくんで生きた心地がしない。
「……私… 初めて… 負け…ました…」
マヤがなんとか声を絞り出すとリヴァイは、
「あぁ… そうだろうな…」
と、ゆっくり顔を近づけてきた。
何がなんだか意味がわからず、涙がこぼれ落ちそうになっている深い琥珀色の瞳を見開いたそのとき、オルオの声が近づいてきた。
「兵長~! マヤ~! おーい!」
リヴァイは顔を近づけるのをやめ、ゆっくりとマヤのあごから手を離した。
……パシュッ!
オルオが二人のいる枝に飛んできた。
「いたいた! やっぱ兵長が勝ったんですね!」
「あぁ」
「あれ、マヤ。どした? 震えてっぞ?」
「あ… うん… なんでもない」
マヤは青ざめながら、両腕で自分をぎゅっと抱いた。
その様子を尻目にリヴァイは命じた。
「お前らは先に帰れ」
「へ? 兵長は?」
間抜けな声を出したオルオの方を向き、言葉を継ぐ。
「俺は もう少し飛んでいく」
そしてマヤの方に一瞬目を向けると、森の奥へ消えた。