第9章 捕らえる
……カンッ! パシュッ! ……カンッ! パシュッ!
リヴァイは高速で移動しているが、前方にいるはずのマヤの姿は見えてこない。
……チッ…。
これくらいの本気では駄目ということか。
グッと森の奥を睨むと、全力でガスを噴出した。
……カンッ! パシュゥゥゥッ!
まだか!
まだ見えぬマヤの後ろ姿を求め、樹を蹴る足にもありえないほどの力がこもる。
……カンッ! パシュゥゥゥッ!
何分飛んだだろうか。
リヴァイの耳に、前方から軽やかな音がかすかに流れてくる。
……カンッ! パシュッ!
いた!
遥か遠く樹々の隙間に見え隠れする、小さな人影。
その背には濃い茶色の髪が馬の尾のように揺れている。
……カンッ! パシュゥゥゥッ!
縮まらねぇ!
迫るリヴァイに気づいたのかマヤの速度が上がり、二人の距離は縮まるどころか少しずつ離れ始める。
……嘘だろ…。
あいつ… ガスをほとんど噴かしてねぇ…。
マヤはガスを噴出する力で飛ぶというよりは、樹々の間を滑るように移動していた。
それはまるで… 鳶が上昇気流に乗り、大空を滑空するかのように。
マヤには立体機動装置が不必要にすら見えるほど、ごく自然に空気の流れに乗り、浮遊しては樹を蹴り飛んでいた。
………。
リヴァイは目を奪われていた。
このままいつまでも、マヤの飛んでいる姿を見ていたい気がした。
その姿はあまりにも自由で美しく、侵してはならないものに感じられる。
……いや、これは勝負だ ……っざけんな!
リヴァイは一瞬自身を支配した甘い欲望を頭から振り払うと、目の色を変えた。
……ドォォォォォォッ!
瞬時にリヴァイの速度が上がり、みるみるマヤとの距離が縮まる。
迫りくるリヴァイの気配を感じ振り返ったマヤの顔は、恐怖におののいた。
その瞬間! グサッ!
マヤが足がかりにしようとした樹の幹に、リヴァイのアンカーが突き刺さった。
マヤが瞬きする間もなく、神速でリヴァイは目の前に立っていた。
「よぉ…」
ワイヤーを巻き取りながら、リヴァイはマヤに迫ってきた。