第9章 捕らえる
マヤに一瞬向けられたその視線は、いつもどおりの無表情な冷たいものだった。
「お疲れさまっす!」
リヴァイが飛んだ方角に叫んだオルオは、マヤにニッと笑いかけた。
「帰ろうぜ」
「うん…」
……カンッ! パシュッ! ……カンッ! パシュッ!
二人は軽やかに飛び、森から出た。
カチャカチャと立体機動装置を外しながら、オルオが笑う。
「いや~ でもさすが兵長だよな! 10秒じゃ話にならねぇよな、次は20秒くらいでどうだ?」
「嫌よ!」
マヤは身震いしながら即答した。
「あれ? お前って結構負けず嫌いってやつ?」
「違うの… 怖かったの…」
マヤは枝の上の兵長の、獲物を狩るような危険な目を思い出した。
「怖い? ……まぁ あれか、後ろから兵長がものすごいスピードで追いかけてきたら、そりゃ怖いわな」
「う、うん…」
「ってか今日の片づけ、マヤが兵長に負けたんだから、やってくれるんだろ?」
「そうだね」
マヤはオルオの立体機動装置を手に取り、歩き出した。
「じゃあ お疲れ様。またね、オルオ」
「うぃーっす! お疲れ! 兵長に負けたからって全然普通だしよ、元気出せグアッ… ガリッ!」
盛大に舌を噛む音があたり一帯に響いた。
……カンッ! パシュゥゥゥッ!
飛びながらリヴァイは、顔をしかめていた。
……チッ なんだ、さっきの感覚は!
マヤに追いつき枝の上で追いつめたとき、全身から沸き上がる得体の知れない興奮を感じ、また同時に目の前で震えている女をモノにしたい支配欲に囚われた。
身体の奥底で… それこそ己を形成する細胞のひとつひとつが、あの瞬間全力で彼女を… 求めた。
……あのとき、オルオが駆けつけなければ… 俺は…。
あごに手をかけ上を向かせたマヤの顔が、頭の中いっぱいに広がる。
………!
自分が自分でないような落ち着かない気持ちに馴染めず、リヴァイはガスを噴かして飛びつづけた。