第23章 17歳
マヤは気配を消すべく、静止画のように動けない。両手は脚立を掴み、右足は上げたまま宙に浮いている中途半端な姿勢だ。
ついに倉庫内の静寂を、甲高い声が破った。
「ずっとこのときを待ってました。壁外調査の前日に言いたかったんですけど会えなくて…」
……ん?
“壁外調査の前日” という言葉で、マヤの脳裏にはあるひとりの新兵の姿が浮かんできた。
……兵長に告白すると言っていたメラニーかしら?
顔と名前はかろうじて記憶していたが、声までは憶えていなかった。だが、きっと彼女に違いない。
「兵長! あたしとつきあってください!」
……あぁ…。
きっと告白するとわかりきっていたのに、いざ本当にそれを聞いてしまうと胸がちくりと痛む。
……兵長は、なんて答えるんだろう…。
聞きたいような聞きたくないような。でも確実に聞いてしまう数秒後の私。
……聞きたくない!
マヤは耳をふさいでしまいたくなったが、今両手を脚立から離す訳にはいかない。耳をふさぐ代わりに、瞳をぎゅっと閉じた。
「……断る」
それが聞こえてきた瞬間… マヤの胸は、さらにもっと痛くなった。
無論メラニーと兵長がつきあってほしい訳ではない。つきあってほしくなんかない。
けれども “断る”、その言葉が密かに想いを寄せている自分自身に向けられたような感覚におちいっていく。
だからマヤは、強く閉じた目を開けられずにいた。
「……どうしてですか? あたしの何がいけないんですか? 言ってくれたら直します。だから…!」
「そういう問題じゃねぇ」
感情的に声高になっているメラニーに対して、リヴァイの声はどこまでも冷ややかだ。
「好きな人がいるんですか?」
そのあまりにも直球な質問に、聞いているマヤも思わずドキッとする。
なかなか返答しないリヴァイにメラニーは問い詰めるように叫んだ。
「なんで黙ってるんですか。答えてください!」