第9章 捕らえる
「コースは巨人模型の広場までまっすぐ飛んで折り返すショートと、広場を突っきって森の出口まで飛んでから折り返すロングとあるんですけど…」
オルオが森の奥を指さしながら、兵長に説明する。
リヴァイが指さした方を見たまま黙っているので、オルオは少し困った様子でつけ足した。
「じゃあ、ロングでお願いしまーっす! マヤ、用意はいいか?」
「うん」
「いつでも行け」
マヤはすーっと息を吸い、ふぅっとゆっくり吐き出した。
斜め後ろから リヴァイ兵長の刺すような視線を感じる。
……はぁ… 怖いし。
でも、やるしかない。
兵長が人類最強だか一個旅団並みだか知らないけど、速さだけは自信がある。よしっ!
一方リヴァイは、マヤの背をしげしげと見ていた。
……確かにこの間見かけたときは、かなり速かったが…。
あのスピードでずっと飛び続けられるのか? すぐに終わりでは面白くもなんともねぇな…。20秒にしとけばよかったか。
リヴァイとマヤはこれまでの壁外調査で配置の関係もあり、互いの戦闘を直接目にしたことがなかった。
マヤはもちろん兵長の驚異的な戦闘力を人伝に聞いたことはあったが、リヴァイの場合は訓練か実戦で目にしなければマヤの戦いを知る術はなく、あくまで彼女の能力は壁外調査後の報告書での討伐数で推し量るしかない。
マヤの戦歴は平凡なものだった。そこに他者を圧倒するスピードがあるとは想像だにしない。
「行きます!」
リヴァイの思考をマヤの凜とした声が打ち破った。
マヤがカチッとトリガーを引いたかと思うと、森の奥深くにアンカーを射出するのとガスを噴出するのを同時におこない、そのまま視界から消えた。
……カンッ! パシュッ!
オルオが数え始めた。
「……7 …8 …9 …10!」
10の声と同時にリヴァイはアンカーを射出し、森の奥へ飛んだ。
その様子を見送ったオルオは、独りごちた。
「……いくら兵長でも10秒はどうなんだ? いや… あの人ならやれるか…」