第22章 一緒にいる時間
「私たちは…、壁外に出て戦わなければなりません。体が資本です」
何も言わずにマヤを射抜くリヴァイの瞳には “そんなことはわかっている” と。
「もちろん兵長はそんなことは承知でしょうし、だからこそ私に食堂に遅れないようにと今日も気遣ってくださったのだと思います」
まばたいたリヴァイの長いまつ毛が、語らずともマヤの言葉を肯定した。
「お願いです…。部下を想うのと同じように… ご自分も大切にしてほしい…」
……自分を大切に…。
リヴァイはそのひとことが自身の中に眠る遠い何かを呼び覚ます気がした。
その日、母が持って帰ってきたパンは三日ぶりの食事だった。
「……母さんが食べて」
「何を言っているの、リヴァイ。ちゃんと食べないと」
優しく微笑む母の身体は痩せ細っていて。腕も脚も小枝のようで今にも折れてしまいそうだ。
それもそのはず。
ろくに食事もとらず娼館で客を相手にしている母は、ひとりで生きていくだけで精一杯に違いねぇ。
それなのにやっと手に入れたパンや肉を、いつも俺に食わせようとする。
……俺さえいなければ、母さんは楽になるのに…!
俺は膝を抱えて座ったままの姿勢で、床を見ながらつぶやいた。
「腹は減ってない。だから母さんが食べて」
嘘ではなかった。
人は空腹が長時間つづくと、感覚が鈍ってくるらしい。
俺は水で喉を潤しさえすれば、何日でも生き抜ける気がしていた。
「リヴァイは優しいね」
静かな母の声にはっとして顔を上げると、慈愛に満ちた微笑みが俺を包んだ。
「ありがとう、リヴァイ。あなたの想いを誇りに思うわ」
「……じゃあ、母さんが食べてくれるんだね?」
てっきりパンは母が食べてくれるのかと思ったのに。
「いいえ」
そう答えた母の瞳は凜として輝いていた。