第22章 一緒にいる時間
「それで… どうだったの? 兵長との二人の時間は?」
ペトラは声の音量を下げただけではなく、いかにも内緒話をするかのように顔も寄せてきた。
「二人の時間って…! そんなんじゃなかったよ。ごく普通に書類仕事をしてきただけ」
ペトラにつられてマヤも顔を寄せれば、ひたい同士がぶつかりそうになる。
「ふぅん、つまんないの。でもまぁ初日だしね、まだまだこれからだよね」
「……何が “まだまだこれから” よ。私は真剣に兵長のお手伝いをしたいだけなんだからね!」
「わかってるって! ……でさ、どのくらい手伝ったの? 最初だし、三十分くらい?」
「えっとね、気づいたら二時間近くやっちゃってたんだ。私も最初だし、一時間くらいかなって思ってたけど、実際にやり始めたら時間を忘れちゃって…」
「へぇ…。執務にそんなに集中できるなんて信じられない」
自称 “執務が大嫌い” なペトラは、顔をしかめている。
「兵長が8時になりそうだって気づいたから終わったの。あのとき兵長が時計を見なかったら、晩ごはんを食べそこなってたかも」
「それは一大事だわ!」
食べることが大好きなペトラは、すっかり小声で話すことを忘れて叫んだ。
「そっか、午後の訓練時間が終わった6時のあとから始めるし晩ごはんが遅くなるんだ」
「そうなのよ」
「執務だけでも無理なのに、その上ごはんも食べられないかもなんて絶対無理! 無理無理無理!」
やたら無理無理とわめきたててペトラは、両手でお湯をぱしゃぱしゃと叩いた。
「もうペトラ、暴れないで」
「ほんと無理だからマヤの誘い、断って良かった~! でもさ、本当に食べそこねたらしゃれにならないから、ちゃんと時間は見とかないと駄目だって」
「うん、そうだね。気をつける」
マヤはペトラが飛ばしてきた湯のしぶきを手で拭きながら、うなずいた。