第22章 一緒にいる時間
ぱちゃぱちゃと湯の跳ねる音がしたかと思えば、マヤとペトラのそばに新兵が来ていた。
「マヤさん、もう大丈夫なんですか?」
マヤとは班は違うが同じ第一分隊の、壁外調査の前日にも風呂で声をかけてきた新兵だ。
「ありがとう。大丈夫よ」
「……良かったです! マヤさんが兵長に抱きかかえられてるのを見たときは驚きましたよ」
「あはは…」
その新兵は苦笑いをしているマヤににっこりと笑いかけ “お先です” と湯から上がった。
「今の子、名前なんだっけ? 忘れた…」
新兵が他の子たちと連れ立って出ていった途端にペトラが訊いてくる。
「ケイトよ」
「ケイトか…。全然 “あっ、そうだった” と思わない…。名前、忘れたんじゃなくて知らないんだわ…。マヤ、よく知ってたね」
「同じ第一分隊だからね。私だって他の分隊の新兵はまだ、名前も顔もわからない子がいっぱいいるよ」
「頑張って憶えないと…」
「そうだね。でもそのうち自然に憶えるよ」
「だね、焦ることないか。でさ、今のケイトが言ってた “兵長に抱きかかえられてるのを見たときに驚いた” ってのさ、マヤが意識がないから驚いたのか、兵長に抱かれてるから驚いたのかどっちの意味なんだろうね?」
あまりふれたくない話題に思わず隣に座るペトラの顔を見れば、少々意地の悪い顔をして、にっしっしと笑っている。
「そんなの、意識がないからの方だよ」
「……だったらいいけどね~。新兵の子らって、マヤの安否より兵長に抱っこされてたことの方を気にしてそうだからね」
「もう、ペトラったら! やめてよ」
「あ~、マヤが怒った怒った」
ペトラはひとしきり面白そうに笑うと、ふと真面目な顔をした。
「そうだ、兵長を手伝うって話はどうなった?」