第22章 一緒にいる時間
思わず数秒見惚れてしまうが、ここは執務室。
マヤは自身の手伝いを申し出て、真剣に仕事をしてくれている。
妙な下心を持ってはいけないと気持ちを殺すと、
「では… よろしく頼む」
そう言って自身も執務をするために、執務机の前に座った。
しばらくして執務室には書類をめくるカサカサという音と、リヴァイの万年筆が奏でる音だけが広がっていた。
どれほどの時が流れたのか。
没頭する二人は、すっかり時間を忘れていた。
「……すまねぇ」
与えられた書類の山をほとんど片づけたマヤは、突然聞こえてきたリヴァイの声に驚いて、肩がびくっと動いた。
「え? あっ、はい。なんでしょう?」
「もう8時になっちまう」
思わず壁の時計に目をやれば、確かにじきに20時だ。
「……ほんとですね」
「初日から悪かったな。つい、いつもの癖で…」
そもそも時間外であるからして、小一時間ほど手伝ってもらうつもりだったリヴァイは少々申し訳なさそうにしている。
「いえ、私ものめりこんでしまって、時間の感覚が飛んでました。すごい集中しちゃってました」
「……そのようだな」
通常なら丸一日かかってもおかしくないような書類の大きな山が、もう小さな丘のようになっている。
「……思ったより優秀で助かる」
「思ったよりって、すごく失礼です」
「ハッ、それもそうだな」
……兵長が笑ってる!
マヤはわかりにくいけれど、でも確かに笑った端正な顔に心臓が跳ねた。
つい胸のあたりを右手で押さえる。
そうでもしないと、跳ねて跳ねて、どきどきとうるさい心臓のことを知られてしまう気がした。
「もう帰れ。晩メシを食わねぇとな」
「あっ、はい」
マヤは帰り支度をしながら、さりげない風を装って訊く。
「明日も… 同じように来ていいですか?」
……今日の一回で終わりにしたくない。
もう来なくていい、と言われたくない。
お願い兵長、明日も… ううん、これからずっと、ここで私は仕事をしたい。
その想いをこめたマヤの声は、かすかに震えていた。