第22章 一緒にいる時間
“あとでな”
その言葉の持つ破壊力。
リヴァイ兵長と確実に “あとで” 会う… いや逢う約束。言葉にわずかに含まれていた親密な響き。
マヤには甘くとろけるように鼓膜を刺激する気がして、心拍数が上がった。
……執務のお手伝いをしに行くんだから。
こんな風に、いちいちドキドキしていては、まともに仕事なんかできやしない。
マヤは両手で軽く頬を叩いた。
……ちゃんと、やらなきゃ。
「マヤ」
顔を赤くしたり、キッと眉を寄せたりしたかと思えば、いきなり自らの頬をぱんっと叩いているマヤを見守るように眺めていたミケの声はもう、分隊長である上司のものだった。
「休憩は終わりだ」
「わかりました。片づけますね」
食器をまとめ始めるマヤの横顔は、引きしまっている。
ミケはあえて口には出さなかったが心の中で “これから… 頑張れよ” とエールを送った。
それから一時間と少し過ぎた。時計の針は18時をさしている。
ミケは執務の進行具合から本心ではもう15分ほど延長したかったが、マヤの気持ちを考慮してすぐさま終業することに決めた。
「今日はこれで終わりにしよう」
「はい!」
勢いよく返事をしたかと思うと、いつもの倍の速さでテーブルの上を片づけたマヤは執務机の前に立った。
「リヴァイのところには、すぐに行くのか?」
「はい。最初ですし」
「そうだな」
……それに早く行かないとリヴァイの機嫌も悪くなりそうだしな。
それはマヤには伝えずに送り出す。
「お疲れ。行ってこい」
「はい、行ってきます。お疲れ様でした」
ぺこんと頭を下げると、くるりときびすを返してマヤは出ていった。
ぱたんと閉まろうとする扉に向かってミケはエールを送る、もう一度。
……頑張れよ。