第22章 一緒にいる時間
まずはリヴァイがカップを上から掴んだ。いつもの独特な持ち方だ。立ち昇る湯気の香りを目を閉じて吸いこむ。軽く寄せられていた眉がぴくっと動いたかと思うと、カップに静かにくちびるを寄せた。
「……悪くねぇ」
フレーバーティーのフレーバーを当てるために口に含んだのだが、あまりの心地の良い香りとすっきりとした味わいに、リヴァイは思わず単なる感想を漏らしてしまう。
瞳を閉じたままフレーバーティーを堪能しているリヴァイを見ていたミケはフンと軽く鼻を鳴らすと、自身のマグカップを手に取った。
鼻こうをくすぐるのは果物特有のみずみずしい香り。ひとくち飲んでみれば爽やかな香気が鼻を抜けていく。
……これは花… だな。間違いない花だ。
だが、名前がわからない。どんな花なのかも。ラドクリフがいればな…、きっとやすやすと答えてくれただろうに。
花と鼻、妙な語呂合わせで最近何かとセットにされているラドクリフのまん丸の顔を思い浮かべていると。
「……どうですか? わかりましたか?」
少しからかうような笑みを含んだマヤの愛らしい声が聞こえてくる。
リヴァイを見るとまだ目を閉じている。
ミケは先陣を切った。
「葡萄の香りがする。それから… 名前はわからんが花だ。これは果物と花をかけ合わせた紅茶なんだろう?」
「ふふ、正解は兵長が答えたあとに言います」
「それもそうだな。リヴァイ、お前の答えは?」
ミケにうながされて、リヴァイは長らく閉じていた薄いまぶたをゆっくりとひらいた。
「確かに葡萄だ。みずみずしい青さが光る…。葡萄の中でもこれは… マスカットだ。ダージリンはもともとマスカットのようなフルーティーな香りとコクが特徴だしな、相性を考えてもマスカットで間違いないだろう。それから花は…」
リヴァイは確認のためか、もう一度カップを鼻先に持っていくと。
「上品でなおかつ華やかな香り立つ甘い夢のような…。ジャスミンだ」