第22章 一緒にいる時間
「お待たせしました」
マヤが薫る湯気をまとって帰ってきた。途端に無機質な執務室が華やぐ。
砂時計の砂がさらさらと落ちきり、マヤがティーポットのふたを開けてティースプーンで軽くかきまわす。ティーストレーナーで濾しながらカップに注ぐ紅茶の色はいつもより薄い。紅色ではなく上品に輝く金色だ。
「……フレーバーティーだな」
「はい。ダージリンをベースにした…」
「待て」
リヴァイのつぶやきにマヤが紅茶の説明をしようとしたとき、ミケがひとことで遮った。
「……当ててみせる」
マヤがいつもとは違った香りを連れて部屋に帰ってきたときからミケは、その正体を考えていた。鼻には自信がある。
「ちょっと難しいですよ?」
「俺の嗅覚をなめるなよ」
「ふふ、じゃあ分隊長が正解するのを期待しておきますね」
楽しそうに笑いながらシャンパンゴールドに輝く紅茶を淹れるマヤ。
……面白くねぇ。
そもそもマヤは俺に対してフレーバーティーの説明をしようとしていたのに、いつの間にやらミケとの紅茶の香り当てごっこになっていやがる。
なぜか苛立ちがおさまらないリヴァイは、気づけば参戦していた。
「……俺が当てる」
しかめ面でそうつぶやいたリヴァイに対して、全く違う反応を見せる二人。
「兵長も参加してくださるんですか?」
ミケのときより明らかに嬉しそうに微笑んでいるマヤに、
……リヴァイのやつ、俺とマヤが笑い合うとすぐに妬くんだな…。
言葉には決してしないが、内心でニヤニヤが止まらないミケ。
「どうぞ」
綺麗に注いだ紅茶のカップを、ミケとリヴァイのそれぞれに差し出す。
「さぁ、お二人とも見事に当ててくださいね」