第22章 一緒にいる時間
「兵長にならもう…」
マヤが “兵長にならもう話してあります” と言おうとしたそのとき、背後の扉が音もなくひらいた。
「……俺がなんだって?」
コツコツとブーツの音を響かせながら、執務机の前に立っていたマヤの隣へ来る。
「兵長…!」
マヤの方をちらっと見やると、リヴァイはミケに真正面から鋭い視線を送る。
「リヴァイ…」
ミケもマヤにちらっと視線を投げてから、話し始めた。
「マヤが… お前の執務を手伝いたいと言っているんだが」
「あぁ…。それで?」
“それで?” とはなんだと内心思う。だからわざと “それで” を繰り返した。
「それで…」
砂色の長い前髪の奥で相手をさぐるようにミケの瞳が、リヴァイの三白眼をとらえた。
「お前の意見を聞きたいのだが」
「……俺の意見とは?」
リヴァイはリヴァイで “俺の意見とはなんだ。決め手となるのは、てめぇの意見だろうが” と内心で舌打ちをする。
「リヴァイ…。お前の意見次第で俺は、マヤに許可を出すかどうかを決めようと思っている」
「ハッ、とんだ茶番だな」
そう吐き捨てるようにつぶやいて口の端をゆがめたリヴァイを、ミケは不思議に思った。
「……どういう意味だ?」
「ミケ…。お前の意見次第でマヤに手伝ってもらうかどうか決まるから…、いや決まるはずだったからだ。それが… お前が許可を出す条件が俺の意見とはな、馬鹿馬鹿しい」
「……なるほど。そういうことか。ではお前はとっくにマヤの手伝いに賛成しているということか」
「あぁ。互いに相手が許可を出せば、自分も許可しようと言っていたということだ」
「フン、確かに滑稽な茶番だな」
ミケは鼻を盛大に鳴らした。