第9章 捕らえる
その日の朝マヤはいつものように長い髪を後ろにひとつに結い、よしっと軽く両手で頬を叩いた。
部屋に鍵をかけ、誰もいない廊下を進む。
居室棟から出て立体機動訓練の森の方へ歩を進めると、チュチュンチュチュンと小鳥のさえずる声が楽しい。
枝の上で仲良くさえずっているのは、つがいのハクセキレイだ。
「おはよ!」
マヤは小鳥に手を振ると、歩を速めた。
……オルオ、もう来てるかな?
ほんの少しいつもより遅めな気がして、オルオが先にいる予感がする。
森の入り口が見えてきた。
……やっぱりもう来てる!
樹に寄りかかっている人影が見え、マヤは走りながら叫んだ。
「ごめーん! 待っ…」
マヤの声は、途中で消えてしまった。
樹に背中を預け腕を組んでうつむいている人物はオルオではない。
「リ、リヴァイ… 兵長…?」
顔を上げた兵長の眉間には相も変わらず深い皺が刻まれている。
状況がよくのみこめないマヤだったが、とりあえず敬礼をする。
「おはようございます!」
気怠そうに兵長はマヤをしばらく眺めていたが、ぼそっとひとこと返した。
「……おはよう」
ぎくしゃくとした動きで敬礼を解いたマヤは、なおもマヤを眺めつづける兵長の視線に耐えかねて背を向けた。
……な、な、なんでリヴァイ兵長がここに? おまけにばっちり立体機動装置着けてるし…。
マヤは背を向けたまま、兵長に質問した。
「……兵長も自主訓練ですか?」
「オルオから聞いてないのか?」
マヤの背中に不機嫌な声が突き刺さる。
「……はい… 聞いてません…」
「……チッ…」
兵長は怖いし、置かれた状況は全然理解できないし、オルオは来ないし泣きそうだ。
……オルオぉぉぉ、早く来てぇぇぇ!