第9章 捕らえる
翌週のある夜リヴァイは執務室で、相変わらずの膨大な量の書類と格闘していた。
……ふぅ…。
一息ついたところへ扉をノックする音がした。
「失礼しまーす!」
入ってきたのはオルオだった。
つかつかと執務机まで歩み寄り、一枚の紙を差し出す。
「お願いしまーす!」
立体機動装置の使用許可申請書だ。
「あぁ…」
リヴァイは使用許可申請書を一瞥して、またしてもある名前に目を奪われる。
……マヤ・ウィンディッシュ…。
使用許可申請書を手にして固まっている兵長をオルオは変だなと思いつつも頭を下げると、きびすを返して扉に向かった。
「待て」
「ハッ!」
オルオは慌てて返事をして振り返った。
「いつもマヤと早朝訓練をしているようだが…」
「そうであります」
「何故だ」
「あいつが、誰よりも速いからっす!」
「……速い…」
リヴァイは立体機動訓練の森で、疾風の如く飛び去っていったマヤを思い出した。
「最初は一人で訓練してたんですよ。ペトラは朝起きられないって言うし…。そのうち同じく一人で訓練しているマヤと一緒になって…」
じっと自身の顔を見るリヴァイに、先をうながされていると思ったオルオは話をつづける。
「一緒に飛んでみたら速いのなんのって! あいつが先にスタートして俺が追いつけたら勝ちってやってるんですけど、まだ一回も勝ててないっす」
「マヤは、そんなに速いのか」
「はい それはもう! マヤより速く飛べるやつなんてこの世にいない…」
オルオはまるで自分の手柄のようにまくし立てていたが、ふと兵長の眉間の皺が深くなっていることに目が留まり、慌てて軌道修正した。
「い、いや… 兵長は、も、もちろん別ですけど…」
兵長の顔色をうかがって、しどろもどろになる。
「……俺も行く」
「へぇ?」
リヴァイの低い声は小さく、聞き取れなかったオルオは間抜けな声を出した。
リヴァイは少し声を大きくして、オルオを睨みつけた。
「明日の訓練は俺も行く」
「は、はぁ…」
「何か文句でもあるのか」
「いえいえいえ!」
戸惑っているオルオに、苛立ったリヴァイは命じた。
「早く出ていけ」
「ハッ! 失礼します!」
執務室の扉は、勢いよく閉まった。